第2回 J-BAC認定品の信頼性

なぜ今「J-BAC認定品」が選ばれるのか。信頼性を支える技術規格と審査体制

白ナンバー車を業務で使用する事業者へのアルコール検知器義務化以降、検知器を導入する企業は急速に増えています。しかし、市場には多種多様な商品があふれており、どれを選べばよいか迷っている方も少なくないのではないでしょうか。

そのような状況の中で、選定の基準として注目されているのが「J-BAC認定品」です。アルコール検知器協議会(J-BAC)が定めた技術規格に基づき、独立した第三者機関による厳格な試験と審査を経た商品だけが、この認定を取得できます。「価格が安いから」「メーカーが有名だから」という理由で選んだ機器が、実際には十分な精度を持っていなかった——そういったリスクを避けるためにも、認定の有無を確認することが大切です。

では、J-BAC認定品は具体的にどのような規格で評価され、どのような審査プロセスを経ているのか。

本記事では、アルコール検知器協議会(J-BAC)の歴代技術委員長4名を迎え、以下の点についてわかりやすく解説していただきました。検知器の選定を担当している方、認定制度の中身を正しく理解した上で導入を判断したい方は、ぜひご覧ください。

  • J-BAC認定制度が生まれた経緯と、第三者機関が審査に関与する意義
  • 認定の根拠となる技術規格(許容誤差・再現性・選択性)の具体的な内容
  • 審査プロセスの厳格さと、認定取得後に義務付けられる維持管理の仕組み

プロフィール


  • NISSHAエフアイエス 株式会社 企画部:常深 剛生

    J-BAC副会長。技術委員会の立ち上げ当初から参画し、第2代技術委員長(2015年度〜)として認定制度の基礎構築に尽力。長年にわたり協議会の中核メンバーとして活動し、現在は副会長として組織全体を統括。検知器の黎明期から現在までの変遷を知る。


  • 光明理化学工業 株式会社 開発技術部:畑 慎一

    現J-BAC会員。J-BAC第3代技術委員長。簡易的な検知管から電気化学式への技術変遷に精通し、技術委員長在任中は公平性のある試験環境の整備に貢献。メーカー間の垣根を超えた技術規格の策定に深く関与した。


  • 根本特殊化学株式会社 開発グループ:三浦 章宏

    J-BAC幹事。J-BAC第5代技術委員長。通常2年の任期を超え、約3年半にわたり委員長を務める。認定制度の厳格化や、メンテナンス・アフターフォロー体制の義務化など、ユーザー視点での信頼性向上に尽力した。


  • フィガロ技研 株式会社 新規事業推進室:河口 智博

    J-BAC第6代技術委員長(現職)。2019年頃より協議会活動に参加し、副委員長を経て現職に就任。白ナンバー義務化に伴う参入メーカー急増期において、新規参入企業への技術指導や審査の厳格化を指揮。制度の「維持・更新」や次世代規格(J-BAC 2.0)への対応を推進している。

技術委員長4名の集合写真

J-BAC認定とは? 第三者機関による品質保証の仕組み

——「J-BAC認定品」とは、どのような商品のことを指すのでしょうか?

畑

一言でいえば、「メーカーの自社基準ではなく、業界が定めた統一基準のもとで、独立した第三者機関による試験・監査を経て認定された商品」です。

ここで重要なのは「第三者機関」という点です。メーカーが自社で品質管理をし、「うちの商品は高精度です」と言うのは自由です。ただしそれは、あくまで自社の基準による自己評価に過ぎません。J-BAC認定品はそれとは根本的に異なり、独立した外部の専門機関が試験を行い、その結果をもって性能が客観的に実証されている商品です。

常深常深

この制度が生まれた背景には、飲酒運転根絶という社会課題があります。かつてアルコール検知器の市場には性能もバラバラな商品があふれていて、「何が良いのか、何がダメなのか」がまったくわからない状態でした。「確かな共通の物差し」がなければ、結果として社会の安全が守れないということで、業界横断で統一基準を作り、審査を行う仕組みが整えられてきたのです。

三浦三浦

認定マークがある商品を選べば、アルコール検知器の専門知識がなくても「一定以上の性能が客観的に確認された商品だ」と安心して導入できる。企業の担当者にとって、認定マークがその判断の根拠になるのです。それがひいては、飲酒運転を防ぐ社会全体の安全につながっていきます。

——その基準は、誰がどのように定めているのでしょうか?

常深常深

J-BACに参加している、センサーを開発しているメーカーや機器を設計・製造しているメーカーが協議し決定しています。各分野の専門である企業が、それぞれの観点から「最低限ここだけは押さえなければいけない」と議論を重ねて決めた基準になります。だからこそ、外見や使いやすさではなく、性能にフォーカスしているのです。

河口河口

逆に言えば、もし検知器を仕入れて販売する立場の人たちが基準を決めていたら、「角がなくて安全であること」や「小型軽量であること」といった外見の話ばかりになっていたかもしれない。性能を重視した基準になっているのは、物作りをしているメーカーが数多く関わっているからだと思います。信じられる制度にすることを大前提に日々、審査・運営をしているのです。

インタビュー風景

J-BAC認定の技術規格|許容誤差・再現性・選択性の3つの基準

——では、認定品の性能は、具体的にどのような試験によって担保されているのでしょうか?

常深常深

柱となるのは「最大許容誤差」「繰り返し測定の再現性」「アルコール以外のガスへの選択性」の3つです。

まず「誤差」は、数字の精度です。例えば0.10mg/Lと表示される場合、その表示値をどの程度のばらつき範囲内に収める必要があるかということです。

J-BAC技術規格ではその誤差範囲を非常に厳しく±0.03mg/L以内に収めることを求めています。

次に「繰り返し」——検知器は1回測って終わりではなく、次の人、そのまた次の人と連続して使うことが多い。何回測っても同じ数値が出るという再現性こそが、信頼の根拠です。

最後に「選択性」です。アルコール検知器のセンサーは、飲酒で生じるエタノールだけでなく、マウスウォッシュや発酵食品に含まれるアルコール成分、あるいは糖尿病の方の呼気に含まれるアセトンといった別の物質にも反応してしまうことがあります。飲酒していないのに「反応あり」と出てしまえば、現場は混乱します。選択性とは、こうした「エタノール以外のガス」への誤反応をどれだけ抑えられるかを示す指標で、J-BAC技術規格ではその基準も定めています。

三浦三浦

「最低限重要なところだけ」と聞くと易しそうに感じるかもしれませんが、じつはこの3つをクリアするのは非常に大変です。たとえば再現性の試験では、「定期的に複数回計測し、毎回同じ数値を出しなさい」と求めます。1回目・2回目は出ても、回を重ねるごとにずれてくることが本当にある。認定されているメーカー各社は、それをクリアできる機器を丁寧に作り上げてくださっています。

常深常深

項目数は絞っていますが、要求水準は非常に高い。実際に自社の技術陣から「なんでこんな規格を作ったんだ」と言われることもあります(笑)。でも、社会の安全水準を上げていくためには必要ですから。

畑

これはバランスの話でもあります。工場や研究室で使う高精度な分析装置であれば、50項目・100項目の試験をこなすことも当然です。ただし、試験項目が増えるほど認定取得にかかるコストが膨み、最終的には商品価格に跳ね返ります。日常的なアルコールチェックに使うアルコール検知器で、1台に何十万円もかけられないという企業もあるでしょう。「何でも多ければいい」という話ではなく、何がもっとも重要かを見極めて絞り込んでいることが、J-BAC規格の本質だと思っています。

——精度の試験以外にも、過酷な環境下での試験があると聞きました。

畑

はい。精度・再現性・選択性の3つは、いわば「測定器としての基本性能」です。しかし実際にアルコール検知器が使われるのは、空調の効いた試験室ではありません。真夏の炎天下に停めたトラックの車内や、冬の早朝の営業所の屋外など、温度環境は過酷です。J-BAC技術規格では、定められた動作温度範囲——5℃から40℃——の環境下でも正しく測定できることを求めています。

河口河口

温度だけではありません。業務で使う以上、持ち運びの最中にうっかり落としてしまうこともあります。「自由落下試験」では、一定の高さからの落下衝撃に耐えられるかを確認します。落としたら壊れて測定できなくなった、では現場は困りますから。輸送時の振動も同じです。検知器は精密機器ですが、精密機器だからこそ、実際の使用環境に耐えられなければ意味がないのです。

常深常深

さらに、電磁妨害——いわゆるEMCの試験もあります。ドライバーがポケットにスマートフォンを入れたまま検知器に息を吹き込む、すぐ横で無線機を使っている、といった状況は日常的に起こりえます。そうした外部の電磁波によって測定値が狂ったり、機器がフリーズしたりしないかを確認するのが、この試験です。

三浦三浦

私がとくに厳しいと感じるのは「ドリフト試験」ですね。ドリフトとは、長期間使っているうちにセンサーの数値が少しずつズレていく現象のことです。J-BAC技術規格では、60日以上にわたって定期的にゼロガスと基準ガスで測定を繰り返し、その数値が許容誤差の範囲内に収まっているかどうかを確認します。1回の試験で一瞬だけ合格すればいいのではなく、長く使い続けても精度が保たれるかを見ているわけです。

J-BAC認定の審査プロセス|公平性を保つサンプリング試験

——審査のプロセス自体は、どのように「公平性」が保たれているのでしょうか?

河口河口

審査を担うのは、J-BAC内部ではなく外部の専門機関です。J-BACのメンバーはメーカーで構成されているため、もし内部で審査をすれば「自社商品に甘い判定が出るのでは」という疑念が生じます。利害関係のない第三者機関が試験を行うからこそ、どのメーカーの商品も同じ条件・基準で評価されます。

また、メーカーからの申請書類はまずJ-BACが受け取り、内容を確認した上で試験機関へ連携します。書類の確認も非常に厳格で、「この言い方は正確か」「この記述はどこに根拠があるか」といった指摘に対し、該当箇所をマーキングしながらやり取りを重ねます。

三浦三浦

機器の性能試験だけでなく、取扱説明書の書き方にも基準を設けています。かつては、壊れたときにどこへ連絡すればよいかわからない、有効期限があるのかないのかわからない、という取扱説明書もありました。それを「こう書きましょう」と決めたことも、制度として大きな意義があります。

また、製造工場の品質管理体制についても現地監査を行います。確認するのは、商品の製造から出荷までの管理手順を定めた品質マネジメント文書——品質管理規程、出荷検査記録、不適合品の管理手順といった書類が存在するか、そしてその内容を担当者が実際に説明できるかです。「書類はあります」と言いながら中身を把握していない、では認められません。書類がなければその時点でアウトです。

——試験に使うサンプルは、どのように選ばれるのでしょうか?

常深常深

「サンプリング」という仕組みで選ばれます。審査員が倉庫の在庫の中から任意に数点を抜き取り、それを試験にかけます。メーカー側が準備した特別な1台ではなく、市場に出回るものと同じ品質の商品で合格しなければならない。メーカーが意図的に選別できない仕組みになっています。

畑

試験環境も徹底的に管理されています。温度・湿度の条件はもちろん、ドラフトチャンバー(ガスを吸い出す装置)によって常にクリーンな状態に保たれた環境で試験を行います。試験機関と協力体制を組み、現地で「ここでやればいいですね」と確認しながら整備してきた環境です。認定機器のメーカー担当者でも、あまり知らない方がいるくらい、細部まで管理されています。

インタビュー風景

J-BAC認定取得後の維持審査・更新審査の仕組み

——認定を取得した後も、継続的な対応が必要なのでしょうか?

常深常深

認定はゴールではなく、スタートです。毎年1回「維持審査」があります。実機の試験はありませんが、書類や品質管理体制など、実機以外のすべてを確認します。そして5年に1回「更新審査」があり、ここでは初回と同じレベルの実機試験も行われます。「一度取れば永久保証」ではなく、常に品質を証明し続けなければなりません。

畑

さらに、メーカーが途中でセンサーやソフトウェアを変更した場合——たとえ外見の色を変えただけでも——かならず申請が必要です。性能に関わる変更であれば、一から試験を受け直すことになります。

河口河口

「去年は通ったのに今年は通らないのはなぜか」というご意見をいただくこともあります。それは、私たちの審査基準や解釈が、より厳密で高い水準になるよう継続的にアップデートされているからです。日々、審査のレベル感を調整しているので、メーカー各社にもそれに合わせていただく必要があります。

三浦三浦

ただ、私たちは「落とすこと」が目的ではありません。審査でNG項目があれば「こう変えてください」とやり取りを重ね、私たちが想定するレベルまで引き上げてから合格としています。全メーカーが一定の水準に達してくれることを目指して、一緒に高めていく、という感覚です。

J-BAC認定品を選ぶことが安全管理の第一歩

——認定制度にかける想いと、検知器を選定する企業担当者へのメッセージをお聞かせください。

畑

アルコール検知器の結果は、単なる数字ではなく、その人が運転してよいかどうかの判断軸となります。前提はもちろん「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」。ですから、アルコール検知器の使用において、もっとも重要なのは「酒気の有無」が常に正しく判定できることだと思います。

そのため、導入される皆様には、メーカーが指定するメンテナンスや日々の維持管理を、ぜひ責任を持って確実に行っていただきたいと切に願っています。

メーカーがいくら精度を追求しても、使い手の皆様に正しく管理し続けていただけなければ、その信頼性を証明し続けることはできないからです。J-BAC認定品を選ぶということは、そうした「管理の重要性」を理解し、共に安全を守っていくパートナーになっていただくことだと考えています。

三浦三浦

認定品には、毎年の維持審査や5年ごとの更新審査が義務付けられています。つまり、一度認定を取ったら終わりではなく、常に品質を証明し続けている商品だということです。認定マークの裏側には、メーカーが積み重ねてきた努力と、それを審査する私たちの厳しい目がある。その事実を知った上で選んでいただければ、より安心してお使いいただけるはずです。

常深常深

「基準を厳しくすると自分たちも苦労する」——それはわかっています。社内からもお叱りの声が上がることもある。それでも、社会の安全のためにあえて厳しい道を選んできた。認定品を選ぶということは、その覚悟と信頼を選ぶことだと、私は思っています。

河口河口

今回お話しした通り、認定品の裏側には、誤差・再現性・選択性の試験、過酷な環境試験、サンプリングによる抜き取り検査、および毎年の維持審査と、何重もの仕組みが存在しています。認定マークは、その一つひとつをクリアした証です。検知器選びに迷ったら、まずJ-BAC認定品かどうかを確認してください。それが、もっとも確実な判断基準になるはずです。